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すぎなのたより

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鶏の話

【鶏と暮らし】

 このところ、人間と動物の間で何が起きているのでしょうか。BSE、SARS、そして今度はトリインフルエンザです。

 私は、倉渕村の山間部で、小規模な養鶏と有機農業を営んでいます。一九九〇年に就農し、鶏飼いを始めて一〇年ほどになります。私のしている養鶏は、平飼い養鶏、または自然養鶏といわれている方法です。地面の上に直接小屋を建て、四方金網の鶏舎の中で、鶏は地面に接して自由に動きまわります。一棟一〇坪の鶏舎の中に八〇羽ほどのメンドリと数羽のオスを飼い、そこで産んでくれるタマゴを売っています。数羽のオンドリでも、オンドリは働きもの(?)で、かなりの割合で有精卵になります。有精卵と無精卵、現代の栄養学などではほとんど差はないといわれています。でもいちばんの違いは、親鶏があたためてヒヨコになるタマゴと、あたためれば腐敗するタマゴということだと思います。そこに生命があるかどうかの差。私たちの食生活を見わたしてみても、口に入るものはほとんど生命です。お米はイネの種ですし、パンも小麦の種、菜っぱは野菜の体ですし、キュウリやトマトは種づくりのもと。肉や魚はもちろん生命そのものをいただきます。生命がなくて口に入るものは水と塩、化学調味料と無精卵くらいでしょうか。

 今まで、ニワトリを飼い始めていちばん大きな問題は遺伝子組み換え作物の問題でした。養鶏に限らず、畜産における濃厚飼料で大きな割合を占めているのが、トウモロコシと大豆、菜種です。この三種類の作物すべてに遺伝子組み換え品種が開発されてしまいました。世界的な大手化学メーカーの農薬と種の独占、遺伝子組み換え作物が健康に与える影響など、大きな問題をはらんでいます。
 遺伝子組み換え飼料が日本に入ってくるようになってから、私のところでは、遺伝子組み換えのおそれのあるトウモロコシや輸入大豆をいっさいやめ、かわりにお米や小麦、有機農業をしている方のくず大豆などを取り寄せてエサにしています。おかげでエサの国内自給率は九五%にまで上がってしまいました。「完全米飯給食」のニワトリ版でしょうか。ただ黄身の色は薄くなりました。タマゴの黄身の色は、トウモロコシの色素が移行しているので、草やくず野菜などをたくさん与えて、補っています。

 日々ニワトリと接していて感じることですが、外界、自然が与える影響はとても大きなものがあります。春にはいっせいにたくさんのタマゴを産み、暑い夏には夏バテをして、草や青物を欲しがります。日が短くなると産卵率は下がり、冬至から寒の内は最も少なくなり、立春の頃から、再び産卵率は上がってきます。ほんとうに暦どおりです。また、家畜は野生動物と違い囲われていますから、飼い主がいかに配慮できるかということになります。エサや水のこと、鶏舎の環境や構造、飼養密度など、ニワトリは外界からの刺激にとてもデリケートです。

 先日、うちのニワトリに尻つつき(他のニワトリの尻をつつく、イジメのような行動)が出ました。原因をいろいろ考えていたら、先輩養鶏家に「カルシウムが足りないのではないか」といわれました。タマゴのカラはカルシウムなので、ニワトリはたくさんカルシウムを必要とします。「人間でもカルシウムが足りないとイライラするでしょう」。ニワトリも私たちと同じ動物、我が身をふりかえって関わりをもってゆくことがほんとうに大切なことだとあらためて考えさせられました。
 ニワトリは外界からの刺激にデリケートだといいましたが、それはニワトリが敏感に自然を感じとり、体を調整しているともいえると思います。近代養鶏は、効率よくタマゴを生産させるために、この外界からの刺激を閉鎖し、人工環境を与え、カロリーを消耗させないようにケージに入れ、高カロリーのエサを与えてタマゴを量産してきました。それが物価の王様といわれているタマゴです。しかしその影には、さまざまな弊害が出てきているはずです。ふたたび私たちの暮らしに引き寄せて考えてみると、冷えやアトピー、生活習慣病、心身ストレス……、私たち自身も閉鎖された環境の中で生きているのかもしれません。
 自然の流れに沿うことの大切さや、生きもののたくましさと繊細さ、ニワトリとのつきあいの中でいろんなことを教えられます。養鶏だけでなく、農業とは学びの場なのだと思います。

 トリインフルエンザがついに日本にも入ってきて、同じニワトリを飼っている者として、とても心配しています。まだ感染経路もはっきりしておらず、予防ということでも、これという方策も出ていないようです。ただ、素人考えですが、感染しやすい条件としにくい条件というのがあるのかもしれません。
 自然と人間の関係について何千年も研究してきたのは中国医学です。中医研の先生方に、今度お話をうかがいたいと思っています。ニワトリとのつきあいに、新たな視点を見つけられるかもしれません。

(S記・2004年1月、中医学関係の通信に書いたもの)



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